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渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜第二の的中(2)〜

 駒沢オリンピック公園は、一九六四年の東京オリンピックの第二会場となった世田谷区から一部目黒区にかけての閑静な住宅地に広がる都立公園である。
 日比谷公園の三倍の広さを持つ総面積41haの広大な敷地の中には、陸上競技場や野球場、テニスコート、サイクリングコースから大小の子どもの遊び場などが設けられている。
 森山沙希は、一人息子の海人をつれて、しばしば家の近くにあるこの駒沢公園に来ることが多い。
この日も駒沢公園内の南サイドにあるりす公園という外周のサイクリングコースに面した児童公園に、家で飼っているロングコート・チワワのコロンを連れて訪れ、海人を遊ばせていた。
曇天ではあるが、日曜日ということもあって、いつもは母親と子供という組み合わせが多い公園内には、父親もいれた親子連れも多い。
しかし、芸能人の家庭には、一般人のような週末の団欒がない。
売れっ子の森山敬一郎は、今日もVシネマのロケで朝から出かけていた。
それは芸能人家庭の宿命だから仕方がない。その代わり、七月には家族でオーストラリアへ旅行することになっていた。
 沙希は、公園内を楽しげに駆けまわり、コンクリートで作られたすべり台を滑り降りてきたり、隣りで乗っている子供と競争をするように無邪気にブランコをこぐ海人を目で追いながら、ぼんやりと今朝の夫との会話を思い出した。

  (あの人は本当に海人が可愛くて可愛くて仕方がないんだな。目に入れても痛くないという言葉があるけど、目の中で暴れても痛くないって感じかしら。でも、いくら生まれつき身体が弱いといったって、このままだと海人は本当に過保護になってしまうかもしれないわね。そろそろ彼と相談して、海人に弟か妹を作ってあげたほうがいいかも─────)

 ぼんやりそんなことを考えながら、沙希は携帯を取り出すと、アイドル時代からの友人で、今は沙希と同じように、結婚を機に芸能界を引退して、主婦をしている山脇チカに宛てて、メールを書き始めた。
 沙希とチカはスリービーナスという三人組のアイドルとしてデビューし、グループ解散後は、それぞれ歌手や女優としてソロ活動をしていたが、五年前に相次いで結婚し、どちらも芸能活動はあまりせず、主婦として家庭を守っていた。
メールを打ち終わり、送信した沙希は、チカからの返事を待ちながら、どんよりとして今にも泣き出しそうな五月の空を見上げた。
 そろそろ午後二時になろうかとしていた。
返事がなかなか戻って来ないので、沙希は、帰ろうかと、海人の姿を眼で追った。
 ところが、沙希がいくら捜しても、その眼の先には海人の姿はなかった。
「海、海人・・・海、海人!・・・・海人!」
 沙希は大きな声で息子の名前を呼んだ。
 しかし、海人はいない。
 沙希は、その付近にいた人たちに海人の背格好をいって、見なかったかと訊ねた。
 ところが、さっきまでいたという声はあったが、その後はわからないという。
(そうだ。あの子は犬が好きだから、上のドッグランのところへ行ったのかも)
 そう思って、サイクリングコースを隔てた上段のところにあるドッグランのエリアまで海人とコロンを捜しに行ってみた。
 しかし、そこにも海人の姿はなかった。
 その時初めて、沙希の頭に、「事故」という言葉と「誘拐」という言葉が浮かんだ。
 沙希は公園の管理事務所を通じて所轄の世田谷警察署に連絡をしてもらった。
 管理事務所では、「子供がいなくなった」といって飛び込んできたのが、テレビなどで見知った元アイドルの坂本沙希だったので、一瞬驚いた様子だったが、有名人であることが、かえって海人の捜索に対し、積極的に行動してくれる力となった。
 そして、駆けつけた世田谷署の警察官と公園職員を総動員して、広い公園のここそこを暗くなるまで捜索した。
 しかし、海人は見つからなかった。
 所轄の世田谷署では、事故と誘拐の両面から捜査をすることになった。



目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。