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渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜悲しい結末(4)〜

海人ちゃんの誘拐事件は、最悪の結果となってしまった。犯人の側に身代金が渡ることはなかったが、海人ちゃんも生きて再び両親の元に戻っては来なかった。
犯罪は結果がすべてである。その結果とは、被害者の生死によってその評価がすべて決まってしまう。人の命は金では買えない、金では購うことができないということがすべての結論である。
しかも、海人ちゃんの死によって、犯人グループと接触する機会が失われ、たとえこの先犯人にたどりついたとしても、死んだ海人ちゃんは還らないのだ。
それを思うと、藤島を始め捜査に携わる誰もがやるせない気持ちになってしまう。
しかし、たとえ海人ちゃんが冷たい骸となって還ってこようとも、捜査がこれで終了するわけではない。逆になんとしても、この悲劇を作った卑劣な犯人たちを追い詰めなくてはいけない。
海人ちゃんの誘拐致死、遺体発見のニュースは、再び大きな衝撃を持ってお茶の間に伝えられた。
そして、当然のように、新聞もテレビも海人の誘拐とその悲しい結末のきっかけを作った岡倉天外と天地推命学との関わりの中で、疑惑の目を持って伝えた。
この疑惑に、岡倉天外は、天地推命学はなんと答えるのか──────!?
いや、いまこそすべてに答え、真相を明らかにすべきである──────!
マスコミの報道は、いずこもこぞってそう伝えた・・・
海人の死を悼むかのようにそぼ降る涙雨。その雨の中、渋谷区松涛の天命本部の玄関前に再び顧問弁護士の石丸康一郎が立ったのは、その日の夕刻であった。
 すかさず某ワイドショーのレポーターが、「会見に応ずるのは石丸弁護士だけですか?どうして天命の人間が会見に出て来ないのですか?」とマイクを向けた。
 石丸は、そのマイクを邪険に払いのけると、
「天命がなぜ会見をしなくてはいけないんですか。今回の誘拐致死事件に天命の人間が関わっているという証拠はないんですよ。そんな証拠もない段階で会見を行なうこと自体おかしいじゃないですか」  と言った。
 まったくその通りであった。MASAKIの事故死、海人の誘拐致死、死体遺棄・・・それらはすべて岡倉天外の占いに端を発したものではあるが、それに天命が関わり予言を現実化させたという確たる証拠はない。ならば、それについて何もコメントする必要などないのは至極当然のことであった。
 それでも石丸は、「いまも申した通り、現時点で天命にこのような会見を行なう責任はありませんが、社会的な影響を考慮して、只今より天地推命学代表の岡倉天外氏のコメントを発表致します」と言って、再び岡倉のコメントが書かれたプリントを配布し、それを読み上げた。

『誘拐という災禍に遭い、幼い命を落とされた森山さんのご令息のご冥福を心よりお祈りいたします。今回の事件についても、その端緒が私の占いにあるとされ、マスコミは連日にわたり悪意と偏見に満ちた中傷を繰り返していますが、
そこには一つだに真実がありません。私、及び天命は、あくまでも占いの結果を伝えただけであり、その占いを現実化せんとする策動などありえぬことであります。今後ともこうした事実を歪める捏造に近い報道を重々慎まれることを切に願いたいと思います。         天地推命学代表 岡倉天外 』

 石丸がコメントを読み上げると、再びレポーターや記者から矢継ぎ早に質問が飛んだ。
「結局、天外氏は出てこないのですね?」
「はい、出てきません。只今読み上げたコメントがすべてです」
「天外氏が出てこないのはなぜですか?」
「先ほども言ったように、今回の事件に天命が関わっているという事実はないからです」
「でも、偶然かもしれませんが、天外氏の予言と符合したわけですし、それについて、こういう文書という形ではなく、天外氏ご自身の口から生のコメントが聞きたいのですが・・・」
「いえ、それはお受けできません。あくまでも文書によるコメントに限定させていただきます。というのは、マスコミの報道は多分に悪意と偏見に満ちたものが多く、天外氏が出てくることでマスコミの好餌になることを避けるためです」
「逃げるんですか?そういう言い方ってないですよね?」
「いや、反論があるなら、ここでのやりとりでなく正式な形で申し入れを行って下さい。もちろん、お断りしますが・・・」
「あのぉ、石丸さん」
「なんですか?」
「あなたは、個人的に天外氏の占いがこんなに当たるのはおかしいと思いませんか?」
「おかしいとはどういうことですか?占いが当たる───それが何か不自然な要素があるんですか?おかしいというのは、あなたの中に占いは当たらないものだという先入主があるからじゃないですか?」
「じゃあ、石丸さんは占いは当たると思っているんだ」
「そういう低レベルの質問にはお答えしたくありませんね」
「聞くところによると、天命の幹部だった女性が所在不明になっているそうですが、石丸さんは聞いていますか?」
「私は把握しておりません。とにかく、一連の事件はまだ捜査段階であり、現時点では天命との関わりもまったく取り沙汰されておりませんので、これ以上お話しすることはありません」
 そう言いおくと、石丸は取材陣の波にもみくちゃにされながらも、天命本部の中に消えていった。
果たして一連の事件と天地推命学は本当に無関係なのであろうか?
岡倉天外をカリスマと崇め、その権威を守ろう軽挙妄動に走る者の仕業ではないのか?
それにしても星羅と天鵬はどこにいるのであろうか?生きて戻って来ることを祈りながら、ハリーは再び易をたてた。

沢天夬

(うーん、沢天夬・・・)
 沢天夬・・・沢村天鵬の名前に使われている字が二字も使われているのは、果たして偶然なのであろうか?沢天夬とはこうある・・・
(夬ハ王庭ニ揚グ。孚イテ号ウ。qアリ。告グルニ邑ヨリス。戎ニ即クニ利シカラズ。往ク攸有ルニ利シ)
 なぜか、それは帰還を知らせているが、その帰還とは・・・・・・
 それから二日後、ハリーのたてた卦が現実のものとなった。

目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。