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渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜第二の的中(5)〜

一夜明けた月曜日。森山は、芸能界きっての実力者であるワールドプロの堀井に頼み、一億円を用立ててもらった。
 前夜、森山から電話で泣きつかれた堀井は、「一億でいいのか」とあっさり言った。
 森山は、堀井の度量の広さにびっくりしたが、同時に億単位の金を簡単に動かせる堀井の底知れぬ怖さも感じた。改めて、彼を怒らせたり、敵に回したら、この世界では生きていけないと感じた。
 しかし、今はそんなことを問題にしている場合ではない。
 翌朝、銀行が営業を開始してまもなく、森山のもとに四菱銀行新宿支店の支店長から、一億円の現金の受け渡しについての電話が入り、パトカー先導により銀行の社用車で一億円が森山邸に運び込まれた。
 そして、犯人が指定した約束の正午になった。
 ところが、待てど暮らせど、犯人からの電話はいっこうにかからなかった。
「どうしたんでしょう」
「海人の身に何かあったんじゃないでしょうね」
 森山夫婦は、村田警部に心配そうに訊ねた。
「うーん、わかりません。犯人側に何か電話ができないような支障が生じたか、あるいはこの後すぐに電話がかかってくるかもしれないし、とにかく待つしかありません」
 しかし、誘拐犯からの電話は、なぜかその後もいっこうにかからず、かからないまま夜になった。
そして、そのまま日付が変わり、日付が変わってもいっこうに連絡がなく、海人の安否についての不安だけが広がった。
翌朝、世田谷署では、再び捜査会議が開かれた。
「犯人がその後連絡して来ないのは、なぜなんだろう?」
「それは、犯人が複数犯だとして、仲間割れを起こしたか・・・さもなければ、残念だけれど、海人君がすでにホトケになってしまったか・・・」
 村田警部は、慎重に考えられる状況を語った。すると、久米刑事が、間髪入れずに言った。
「問題はそこですよ、そこ。もし今回の事件が金目当ての犯行だとすると、たとえ海人君がホトケになっていたとしても、まだ生きているように偽ってでも金を取ろうとしてくるはずじゃないでしょうか」
「たしかにそうだね。おかしいね」
 と、和田警視が腕組みしながら呟くように言った。
「それなのに、犯人からのコンタクトがない・・・ということは、久米さんは、海人君はすでにホトケになっていると思うのかね?だから、もう別に身代金の受け渡しにこだわる必要がなくなったと」 「いや、それはわかりません。人質の安否については、最後まで希望は捨てるべきではないと思います。とにかく、私は昨日も話したように、今回の事件を単に金目当ての犯行と断定するのは危険だと思うだけです。だから、私は、森山夫婦に彼らがいうように何か本当にトラブルがなかったか、彼らの交友関係を中心に根本から洗ってみるべきだと思いますが・・・」 「うーん、それもあるかもしれんないな」
「それと・・・」
「なんだね」
「その怨恨の線からいうと、やはり私は、昨日も話した例のテレビで事件を予言したという天地推命学の動きも気になるのですが・・・」
「でも、私はテレビとか見ていないからわからないが、それは所詮テレビで言った戯言と事件が偶然重なっただけじゃないのかね」
 と原署長が口をはさんだ。
「まあ、たしかにそうなんですが・・・」
「あの天命の件は、藤島管理官が自分なりに追ってみたいと言っていたよね。
あとで意見を聞いてみるか」
 本庁の管理官の藤島が抱えている事件はこれだけではない。今日は別の事件でこの場にはいない。そんな藤島の話題が出て、原署長が皮肉まじりに言った。
「あの藤島さんはそういった占いを信じるタイプなんですかな」
「いえ、管理官はそういうタイプではないと。まあ、本質的には信じないんですが、先日のMASAKIというタレントの事故との符合もありますし、今回の場合もそのへんは間口を広げて可能性のあるものはなんでも調べていきたいと言っているようです」
「わかった、わかった。こちらでも、もう少し間口を広げて、その天なんとかという連中の動きも探ってみることにしようじゃないか。ま、所詮、占いは占いだとは思うが、それらしい人間のアリバイを中心に捜査するってことで、和田さんどうかね」
「いいんじゃないですか。まぁ、そっちの方は、管理官が詳しいみたいですからまかせることについてはやぶさかではありませんが・・・とにかく、いま我々にとって一番急を要することは、まずは海人ちゃんの所在と安否の確認をすること。今回の事件は、金目当ての犯行という線は基本線にして残すとしても、その何とかいう占いの組織のことも含め、森山夫婦への個人的な恨みなど怨恨の線からもさらに捜査を進めよう。村サンを中心に、各人、森山夫婦の周辺をもう一度徹底的に洗ってくれ」
和田警視は力強く宣言し、部下を督励した。
 しかし、和田警視の心の中には、正直、海人の安否については、不安ばかりが広がっているのを否定できなかった。
 そして、三日経ち、何の手がかりも進展もないまま、ついに事件は公開捜査に切り替えられた。



目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。