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渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜悲しい結末(9)〜

 安藤天蘭の住むマンションは、JR代々木駅から明治通りをはさんだ反対側の千駄ヶ谷5丁目にある。
 8階建てのマンションの6階にある自室からは、まるで借景をしたかのように新宿御苑の緑が広がっている。
 しかし、緑が広がっているといっても、夜ともなれば緑を識別することもできないような鬱蒼とした森となり、暗く陰影だけの静かな空間があるだけだ。
 記者会見で神経をすり減らし、活動休止についての打ち合わせを行い、渋谷にあるいきつけのスナックで少しだけアルコールを入れて帰宅した天蘭は、ソファーに倒れ込むように身体を投げ出した。  ひどく長い一日であった。しかも、そこには長年仲間として関わってきた澤井天鵬の殺害という事実があった。
 彼女がどういう形で最期を迎えたのかはわからない、ただその経緯については天蘭もよく知っている。
 そして、いつのまにか彼女もその殺人事件の一端に関わってしまったのだ。
「疲れた・・・」
 と、天蘭が呟くように言ったその時、彼女のケータイが震えた。
「はい。私です。あっ、あなた・・・ええ、疲れたわ。もうバテバテ。新聞記者ってすごくしつこいし・・・。えっ、今から?うん、わかった。ええ、明治通りに出たところで待っています」
 ケータイの主に、承知の返事をして、天蘭はキッチンに行き、水を1杯飲むと、再びショルダーバッグを持って部屋を後にした。
 もう夜中の一時を回っている。あたりには人影すら見えない。天蘭はマンションから出ると、夜道を新宿方面に向かってやや早足で歩き始めた。
 と再びケータイが鳴り、
「はい、私です。ああ、その件ですか・・・」
と彼女は歩きながらケータイを相手に話し始めた。
 話に夢中になるあまり、天蘭は後方から一台のワゴン車が近づいて来るのをさほど気にも留めていなかった。
 ところが、彼女が「あっ」と思った時はもう遅かった。疾走して来たワゴン車は左後方から彼女にぶつかるようにして、彼女をそのまま新宿御苑側の壁に猛烈な力で弾き飛ばす。頭から新宿御苑の外壁に突っ込んだ彼女はそのまま頭から血を流して倒れ、動かなくなった。
 一方、彼女を撥ねたワゴン車は30mほど走って急停車し、助手席から一人の男が降りて来た。天蘭は微動だにしない。男は彼女の口元に手袋をはめた手をかざし、天蘭の息が完全に止まっているのを確認すると、黙って傍らに落ちていたケータイを拾うと、彼女をそのまま放置したまま、いそいそと車に乗り込み、走り去っていった。

「あれ、あんなところで誰かが倒れていますよ。なんか女みたいだな」
「ふん、酔っぱらってどっかの男に置いてきぼりを食ったんじゃない?」
 4時間後、日の出前の薄暗がりの中、彼女の轢死体は朝帰りするホステスを乗せたタクシーによって発見された。
 ついに、事件のカギを握っている重要な一人と思われた安藤天蘭まで、何者かによって葬られてしまった。
 いったいなぜ?これも口封じのための犯行なのであろうか?

目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。