HOME > 渋谷の父 ハリー田西の連載小説

渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜悲しい結末(8)〜

 翌日の新聞、テレビのワイドショーは、このニュース一色になった。
 『またまた天命が関係か? 富士山麓に女性の二遺体!』
 『青木ヶ原に女性の不明二遺体!一人は天命の幹部と判明!』
 『殺人事件の元凶か?!どうする!?絶体絶命!天地推命学本部』
 これらのタイトルがまさにその朝の天命の置かれている状況を表していた。
 3つの事故・事件に天命がかかわっているという物的な証拠はない。ただ、第3の事件の被害者は、つい先日まで天命の幹部の一人であった人間である。それだけに、事件と天命との何らかの関係を疑われても仕方がないことといえる。
 それだけに、マスコミの報道はすべて事件の背後には天地推命学本部があり、その奥に鎮座しているのは、天命の総帥である岡倉天外であるという一方的な伝え方になっていた。
 天命にとって、また岡倉天外にとっても、まさに絶体絶命のピンチであった。
 そして、この日の午後、渋谷区松涛の天命本部でこの一連の疑惑に対しての初めて天命側が記者会見を開くという報せがマスコミ各社に入った。
 午後一時、会見場に現れたのは、実質的に天命のNO.2といわれる"四天女"一位、安藤天蘭と顧問弁護士の石丸康一郎、並びに、『岡倉天外SP』を放映中の東亜テレビのプロデューサーである吉村昭の三人で、そこには岡倉本人の姿はなかった。
 司会の紹介の後、まず安藤天蘭が岡倉天外のコメントを代読する形で記者会見が始まった。天蘭の読み上げた岡倉の声明は次のようなものであった。

『今般、当天命推霊学本部所属していた澤井天鵬さんが、同行の女性とともに他殺死体で発見されたことは、真に遺憾の極みであります。澤井天鵬さんは七年前に創生の天命本部に入り、天地推命学の習得と研鑽に励んでおりましたが、十日ほど前に突然、一方的に退職を願い出て、その後、当方との連絡がとれなくなっていたものであります。また、私のもとには職を辞す理由は一身上の都合としか伝えられておりませんでした。天鵬さんは、いわゆる"四天女"という天命の幹部職員であると同時に、私の直弟子の一人であり、その離職に際してじっくり話し合いの場を持つべきところであったと、いまは自らの不明を恥じ入るばかりあります。それにしても、MASAKI氏の事故死、森山海人さんの誘拐致死事件、さらには今回の澤井天鵬さんの殺人事件と、なぜ私どもの近辺でこうも立て続けに悲劇が続いてしまうのか、私は運命の波濤に翻弄される我が天命の試練と思わざるをえません。しかしながら、かくも連続して頻発する事故・事件の前では、我が天命に社会的責任はないにせよ、道義的責任は免れないと判断するに至りました。よって、私、岡倉天外は、本日付を以って、天地推命学代表の座を辞する決意を致しました』

 安藤天蘭が最後の岡倉天外の辞任のくだりを読み上げると、会場に一瞬どよめきが起こった。
 それに引き続いて、東亜テレビの吉村プロデューサーから、岡倉天外本人からの強い要望として、当面の間『岡倉天外SP』の放送休止が発表され、これまたどよめいた。
 それから質疑応答となったが・・・・。
「今回も公の場に岡倉氏が来られないのはなぜですか?」
 という質問に、まず石丸弁護士が立って答えた。
「それについては、私からお答えしましょう。岡倉氏は今回の一連の事件において心労のため持病の心臓の具合が悪化し、医者からドクターストップがかかっている状態です。これが医師の診断書であります。また、自分がこの場に出ることで、この場を徒に混乱させるべきではないという配慮もあります。」
「それって、毎度のことですが、今回も逃げたわけじゃないでしょうね?」
「体調というのは、本当にこの場に来れないくらい悪いんですか?」
「今回の事件の後ろには岡倉氏の指示があったという見方も出ていますけど、これについてどう思いますか?」
「天命は呪いで人を殺す殺人集団だという声もありますが、そういう声に対してどう思いますか?」
一人が意見を述べると、それに追従するかのように記者やリポーターの声が重なり、次第にエスカートして、終いには「はっきり、ちゃんと答えろ!」と、批難の怒号に変わった。
「お静かに!お静かにお願いします。そちらの方、興奮なさらないでいただけますか?あなたはどちらの記者の方ですか?」  さしもの冷静な石丸の言葉にも、熱と棘が加わる。
「天命に悪があるというなら、ちゃんと証拠を出していただきたい!おたくを名誉毀損、並びに誣告罪で告訴することも出来るのですよ」
 それがどのような罪になるのかはわからないが、そう言い放った相手がいかにもやり手の弁護士だけに、報道陣はビビッた。
 そして、その後、何度かの質疑応答があったが、そのつど石丸弁護士の毅然とした態度と応答に阻まれ、会見は何か肝心な部分がしっくりと解明されないままに終了した。
 一方、事務所でテレビでこの会見の模様を見ているハリーのもとへ、藤島から電話が入った。
「ハリーさん、天命の会見、見てましたか?」
「ええ」
「岡倉天外は出て来ませんでしたなぁ」
「出ないと思っていました」
「はぁ・・・」
「先程、安藤天蘭が読み上げた声明を聞いた通りですよ。天外氏自身の体調が悪いのかもしれないし、しかも、本人は何も悪いことをしたと思っていないのですから出てこないと思っていました」
「そんなもんでしょうかねぇ。それより、一つ面白い情報をお伝えしときましょう」
「面白いって何です?」
「うん。実はね・・・地検の特捜部が動いているという噂があるんです」
「地検の特捜が?ということは・・・脱税、ですか?」
「うん。どうやら天命の金の流れに不審なところがあるようです」
「特捜がねぇ」
「となると、こっちの捜査も早いとこ進めて行かなくてはいけません」
「どうしてですか?」
「地検の捜査が先行すると、少しややこしくなりそうですからです」
「というと?」
「どう説明したらいいかなぁ・・・娘一人に婿二人みたいなもので、取調べも両方一緒にというわけにいかなくなるわけです」
「はぁ」
「例えば・・・スポーツ万能の男の子がいて、その子を野球部とサッカー部でうちに入れと取り合いをしているようなもんで、どっちかに入った後は二股をかけるというわけにいかないから、その場合は取ったもん勝ちでしょう?」
「なるほど」
「そういうわけで、こっちとしてはなんとか早く天外を引っ張りたいんです。それには彼らの組織ぐるみの犯行を証明する証拠が欲しいんです」
その翌日、星羅の実家のある八王子市内の寺で、星羅の通夜が行なわれた。
 感情の起伏が激しい綾乃は、終始泣き通しであった。
「ハリー先生、これが星羅さんに与えられた天命なんですか?こんなにあっけなくて、はかなくて、悲しいものなんですか?私、よくわかんなくなりました」
 と、言った。
 ハリーは言葉がなかった。
「先生、星羅さんの天命っていったいなんだったんでしょうね?」
「うん、まあ・・・少なくても、彼女は人のために、やさしく尽くそうとしていたよ。それが彼女の天命だったのだと思う」
 ハリーはそれだけ言うのがやっとだった。
「悪いのは岡倉天外ですね。きっとあいつが星羅さんを殺させたんですね。絶対に、絶対に許せませんよね。私、絶対に仇をとってやるんだ」
 綾乃は、悲しみをこらえてそうしぼり出すように言った。ハリーは、何も言えなかった。
 果たして一連の事件の黒幕は、天命の総帥である岡倉天外なのであろうか?
 そして、捜査のメスはその岡倉天外という病巣までたどりつけるのであろうか?
 ところが、事件はさらに想定外の展開を見せた。

目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。