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渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜悲しい結末(3)〜

 天地推命学の本部から帰ったハリーは、藤島管理官の携帯にさっそく電話を入れた。が、藤島はすぐには電話に出なかった。なにやら立て込んでいるのだろうか。かなり鳴らして、もう切ろうと思った頃、ようやくつながった。
「あ、ハリー田西です!」
「ああ、ハリーさんか。実は、例の海人ちゃんの遺体が川崎の山林で見つかったんですよ」
「えっ?やはり遺体で・・・可哀想に・・・」
「それでてんてこまいですわ」
 電話のバックの空気も騒然としているのがわかる。
「じゃあ、しばらく手が空きそうにありませんね」
「ええ、まあ、そんなわけでしてね。例の天命に行った件ですよね?」
「はい」
「あとでこちらからかけ直しますわ」
 藤島はそういうとあっさり電話を切った。

(海人ちゃんは死んでいたか。まずいな)

 ハリーの胸にまたひとつ憂鬱な翳が増えた。海人ちゃんが生還しなかったというと、負の連鎖からいっても星羅の身が心配になる。
「先生、星羅さん、大丈夫でしょうか?」
 そんなハリーの心中を代弁するように綾乃が呟いた。
「うん、今は海人ちゃんの事件と星羅たちの件は関係していないことを祈るしかないね、でも・・・」
 さすがの綾乃もハリーの言葉を聞くと黙ってしまった。
 それから、二時間ほどたって、藤島から電話がかかってきた。
「いやぁ、今回の誘拐事件に関しては、こんな結果になってしまうとは、正直悔しいです」
「で、捜査のほうはどうなっているんです?犯人のメドとかは?」
「うん。捜査の進捗状況の細部は漏らすことが出来ないけれど、現場付近で事件が発生した時刻に目撃された不審な白いワゴンがあって、それが緑ナンバーのトヨタ・ハイエースというところまでは特定できたので、それを洗っていたところに遺体発見ですわ」
「で、天命との関わりは何か出ましたか?」
「いや。天命の関係者にはアリバイがあってね。事件があった日は岡倉天外を含めて幹部クラスは全員渋谷のセルリアンタワー東急ホテルでレセプションをやってました。それ以外の人間は人数が多すぎて、まだ全員のアリバイまではあたりきれていません」
「うーん、とにかくまだまだ捜査段階だったんですね」
「ええ、これからもです。ところで、そっちのほうはどうでした?」
「はい。いちおう天命の本部に行って、天鵬さんの知人ということで行方を尋ねたのですが、とんでもない話をされまして・・・」
「とんでもない話?とんでもない話とは・・・」
「彼女がなぜ天命を辞めたのかというと、正確には辞めてもらったんだというんですね」
「ほーっ」
「その理由というのは、澤井天鵬が同性愛者だからだというんです」
「同性愛者?なんでまた・・・」
「はい。天命は女性の多い組織なので同性愛は禁止しているそうで、その規律を犯した澤井天鵬が同性愛?というと、その相手というのは、星羅さんだといっているんですか?」
「ハッキリとはいいませんでしたけどね。おそらくそういうことなんでしょう。だから辞めてもらったんだと」
「で、どうなんですか、彼女たちは本当にレズの関係なんですか?」
「いや、まさか。それは、何かの間違いでしょう。星羅さんは、同性愛者じゃないですよ。一度も結婚はしていないと言っていましたが、過去何度かドロドロの恋愛をして、もちろん男性とですよ。それが占いの道に入るきっかけになったというんですから・・・」
「でも、もう男に翻弄されるのはこりごりだと女性に走ったなんてことはありませんか?」
「うーん、そういわれてしまうと、彼女のプライベートについてはよく知らないので、困ってしまうんですが・・・」
「うーん、ということは、とにかく同性愛にかこつけて、天地推命学側は、澤井天鵬を切ったということか」
「おそらくそうでしょうね。でも、考えてみれば、それも変な話ですよね」
「どういうことですか?」
「うん。澤井天鵬が同性愛者で、その相手が星羅だとして、それを理由に天鵬が天地推命学の本部を去ることになったとしても、それと二人が失踪するというのは別問題ですよね」
「ああ。たしかに行く末を悲観して失踪したというには、あまりに動機が弱いね」
「そうです。仮に同性愛という状況があるにしても、そのことぐらいで、うちの星羅が仕事をすっぽかし、誰とも連絡を絶って、姿を消すことはありえないと思うんです。ましてや、彼女は同性愛者ではないんですから。つまり、同性愛という理由は二人の失踪とはまったく関係がない、天地推命学サイドが作った建て前の理由であって、二人の失踪にはもっと別の事情があると思うんです」
「うーん、何だろう?消されたか?」
「それは・・・ないことを祈りましょう」

目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。